祟道天皇御陵の前にて 『きよきまなじり*つよきまなざし』のために


祟道天皇御陵の前にて。『きよきまなじり*つよきまなざし』のために

{かなり創作的に。だから『きよきまなじり*つよきまなざし』の作者へと自己劇化させて ――


私は「諸國一見の僧」となって、祟道天皇八嶋御陵のまへに立ってゐた。わが渾身の靈驗念力で、祟道天皇こと早良廢太子に「複式夢幻」の能を演じてもらはんがために。

こゝに葬られた彼の死靈を「呼び起こす」のが私の目的であった。

私は合掌し、半眼に眉を顰め、菊の御紋を付けて閉ぢられた扉の中の御陵から、御陵のなかへと念じ入って行った ―― その深淵のさなかで、
鼓打つがごとくに私は手を拍った。一つ目は私の來訪を告げ、二つ目は靈を呼び起こす天鼓の響きに。

それにこたへ、笛をするどく鳴らしたのは杜の鳥、ヒヨドリのけたたましい囀りが響き渡り、まがまがしくもおごそかなる緊張緊迫に時空は際立った、切り立った。

觀阿彌世阿彌の親子が工夫し發明していった複式夢幻の能曲の形式と雰圍氣とが私にできあがった。かうして、
私は「何事かの現前」を待った。

どれほどの時間がさうして過ぎたのか、時は「たそかれ」に暮れてゐた。
どうやら、私の念力はまだ未熟であったらしい。

|むくわれぬこととおもへど、わがいのち、もやしつくさむ、ためにつとめむ|
|闇雲に切り裂く虹の童子かな「たちなばみちよ、あらたまみちよ」|

御免と拜禮して、立ち去ろうとしたその時、菊の御紋の扉の樞の音が、私の耳に鳴った。
扉が開き、暗闇に仄白く、亡靈の幻影を私は待った。
が、
聞こえてきたのは、墓陵全體からの地靈のごとき聲の響きであった。





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