マラルメ La Brise marine と ヴァレリ Le Cimetière marin」

 {ちょっと一休みのつもり、珈琲(フランス風に気取ってカフェあるいはキャフェのはうがいいか)でもを飲んで、すぐに続けるつもりであったが、根が「怠惰で、否定的」、あっと云ふ間に一日以上過ぎてしまった。ために、前回を「萩原朔太郎と荻原守衛」の『對のあそび』と改題し、こちらを 「マラルメ La Brise marine と ヴァレリ  Le Cimetière marin」の『對のあそび』とします。

マラルメ La Brise marine と ヴァレリ  Le Cimetière marin」の『對のあそび』

こんな事は二つの詩を並べてみれば、異國人の初學者にすぎぬ私にすらすぐに感じられたことだから、すでに誰かが言ってゐることだらうが、獨自にこのことに気付いた私は、その時の驚喜の感動が(私のなかでも有数の文學的事件であるかのやうに)忘れられない。

この二つの詩、その題名からして『海邊の息吹』『海邊の墓地』と、相似的かつ対照的、
La brise marine と Le Cimetière marin 女性形と男性形、marine(marinの女性形)といふ共通語、そして
Brise「息吹」といふ「」にたいして Cimetière「墓地」といふ「」の對比、等々、
Valery は十二分に若き日の師匠であった Mallarme の詩篇を意識して、唱和し、頌歌として作詩してゐたのだ。そして、それを『海邊の墓地』の終結部に隠すやうに置いた。



二十三歳のマラルメが 1865年に Brise marine を作った時、ヴァレリはまだ生まれてゐなかった。
彼が誕生するのはその六年後の1871年である。 そして、1920年に Le Cimetière marin を作った時、ヴァレリは四十九歳となってゐた。


どちらも、わが日本においても「肉は悲し、書は讀まれたり」と「風立ちぬ、いざ生きめやも」として、夙に有名な一句同志、
Stéphane Mallarmé の
La chair est triste, hélas ! et j’ai lu tous les livres. 肉體は悲し、我すべての書を讀みし

Paul Valéry の
Le vent se lève !… Il faut tenter de vivre !  風吹きぬ、生きる事に努めなければならぬ

まるで一對の詞句のやうに、vivire「ヴィヴル」livre「リィヴル」と韻を踏んで、まるで鏡に映しあった對句のやうだ、と感じ思ったものであった。

二行づゝにしてみると、もっとその相似&對比が見えてくる。

La chair est triste, hélas ! et j’ai lu tous les livres.
Fuir ! là-bas fuir ! Je sens que des oiseaux sont ivres

Le vent se lève !… Il faut tenter de vivre !
L’air immense ouvre et referme mon livre,
さらに四行、さらに六行(それでヴァレリのはうが終ってしまふ)にしてみれば、ヴァレリのその同工異曲ぶりといふか、同曲異工ぶりが理解できると思ふ。

La chair est triste, hélas ! et j’ai lu tous les livres.
Fuir ! là-bas fuir ! Je sens que des oiseaux sont ivres
D’être parmi l’écume inconnue et les cieux !
Rien, ni les vieux jardins reflétés par les yeux,
Ne retiendra ce cœur qui dans la mer se trempe,
O nuits ! ni la clarté déserte de ma lampe

Le vent se lève !… Il faut tenter de vivre !
L’air immense ouvre et referme mon livre,
La vague en poudre ose jaillir des rocs !
Envolez-vous, pages tout éblouies !
Rompez, vagues ! Rompez d’eaux réjouies
Ce toit tranquille où picoraient des focs !
chair 身 = vivre = vent 風,
livre, page
ecume 泡, vague波
etc
もうすっかり錆び付いてしまったフランス語(もっとも最初から切れ味惡い鈍刀でしかなかったが)で、公衆面前、あやふやなアナリゼなどしてゐると掻かなくてもいい恥をみづから掻くことになってしまうだらうから、ここらで止めておく。どうせ、こんなもの、誰も讀まないだらうけど。

ともあれ、この「肉は悲し」と「風立ちぬ」は一對となって、
詩人?としての私にとっての「獅子吼*龍吟」の根源となり、
金剛*胎藏のチカラ*タカラアラタマミチヨ*タチバナミチヨ眞言言靈となって、
唯我獨尊如是我聞で獨立獨歩する私を支へ働いてゐてくれたのだと思ふ。



次は、
Edgar Allan Poe の Monsieur Dupin Paul Valéry の Monsieur Teste
何時になるかはわからないけれど


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原文はどちらも Wikisource で見られます。昔日の苦勞を思へば、まったく夢のやうな現實です。