日本人への遺言:小林秀雄 1974


左翼だとか右翼だとか、みんなあれイデオロギーですよ。あんなもんに「私」なんてありゃしませんよ。信念なんてありゃしませんよ。どうしてああ徒党を組むんですか?日本を愛するなら?。日本を愛する会なんてすぐこさえたくなるんですよ。馬鹿ですよ。日本てのは僕の心の中にあるんですよ。諸君の心の中にみんなあるんですよ。気がつかないだけだよ。こんな古い歴史を持った国民がね、じぶんの魂の中に日本を持っていないはずがないですよ。
―― 小林秀雄講演『信ずることと考へる事』1974


「僕の心の中に日本がある」うちはいい。小林秀雄の世代はまださうであつたかも知れぬ。だが、戰後の日本人は「古い歴史を持って」はいても、それを識る事がなくなった。文化も傳統も日本的なるものは日常の生活から放棄され、身丈にあふはずのないアメリカナイゼイションを得意のハイカラ趣味、いつもの全身主義で受入れてしまつた。そのあげくのこの日本の現實をみれば、一九七四年の老年となつた小林秀雄の日本人への信頼がノウテンキなものに思はれてくる。




Art of Heart {FICT 69 FACT} Word of World