比喩と揶揄:『狂牛病』

 
{旧作披露

『狂牛病』

家畜の第一として人間の生活に付き合ひ、穏和の定評を與へられ、襃め稱へられてきた牛、
名實ともに狂氣凶暴とは最も遠い、最も結びつかない動物、
牛のやうになりたいと少なからぬ人におもはせた動物、
その牛が狂つたのだ。

はじめて「きょうぎゅう」と聞いた時、恐牛と私は漢字をあてた。
スペインやイタリアで無理矢理「恐牛」にされてゐるのを見て知つてゐたからである。
なんでもの靜かな生物をわざわざ恐怖にしあげて「なぶりもの」にするのを苦々しい思ひで見てゐたのである。
ところが狂牛、よくぞ命名したものである。

原因は草食の彼等に肉食をさせたため、と聞いて再び私は唖然となつた。
牛は狂ふべくして狂つた。同類の肉を食はされて、狂はないでゐられるか。
人でさへ人を食へば必ず狂つた。牛を食つた牛が狂はないはずはない。
私は至極納得した。牛よ狂へ。もう人の役に立つな。
今度狂ふのは、豚か鶏か。犬か猫か。人か。
人ならとつくに狂つてゐる。

ゴキブリがわらつてゐる


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